よくある風景印もひとひねりしてあるとぐっと魅力が増す、その典型例です。図のしらせ船内郵便局の風景印は誰でも郵頼できますので特に少ないというほどのものではありません。ところが、Antaractic Helicopter Flightとタイピングされ、発着時のデータが書き込まれていることでこのカバーの持つ意味が変わってきます。これを読み解いていきましょう。
これは、西ドイツ宛の年賀書状を砕氷船しらせ船内郵便局から差し出すにあたり、昭和基地までヘリコプターで運んだことを記録したのです。こういった輸送手段がはっきりわかる郵便物も魅力的な郵趣アイテムだと考えています。南極地域に派遣される各国の研究者さんやエンジニアさんたちはこういった記念カバー作りがけっこうお好きなようでちょいちょい見かけます。筆跡が日本人っぽいので、おそらく日本の隊員さんがちょっとした遊びに付き合ったのかな?と想像しています。
船内印は昭和59年1月1日、ですがヘリで運んだのは前年の1983年(昭58)12月22日とばっちり記録されています。前押しだということがひょっこり明らかになってしまっていますが、まあそこは時効ということで(笑)。運んだのは海上自衛隊所属の輸送協力用ヘリS-61A型の8184機です。
(参考:http://airport.world.coocan.jp/jmsdfs61.html)
昭和基地に運ばれた後は、年一回の物資輸送・交換日である2月1日に通常の輸送ルートでいったん日本に送り返されたものと思われます。東京中央郵便局が1984年4月19日の中継印(欧文印)を押印した後、さらに西ドイツへと運ばれたものです(西ドイツでの到着印はありませんが)。
なお、南極から東京中央まで届くのに2ヶ月半もかかっているのはちょっと長すぎる気がしますけれど、南極観測船の日本帰還は通常4月中旬ですから、カバーは再びしらせに積み込まれて送られたものと解釈すればむしろ妥当なところでしょう。
最後に最も重要なことがらを記します。表面に南極観測隊ことJapanese Antarctic Research Expedition、略称JAREのスタンプが押されています。これは隊の印であって郵便印ではないので通常の郵頼では押されることはありません。さらに裏面にもしらせのスタンプが押されています。これらのスタンプこそが実際に南極を発受したことを証明するものです。南極カバーを選ぶ場合は、どうかこのJARE印の有無をチェックされてください。